一家の大黒柱に万が一のことがあった場合、残された私たちの生活はどうなるのだろう…とふと考えた方も多いのではないでしょうか?
できればそんなことは考えたくないものですが、将来起こりうる事態に備えておくことも大切なことです。
不測の事態に遭遇してから慌てないためにも、公的年金からどのような年金が遺族に支給されるかを把握することから始めましょう。
まずは公的年金から支給される遺族年金にはどのようなものがあるかを見ていきましょう。
目次
遺族年金について
遺族年金については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、そちらをご参照ください。
遺族年金の仕組みが分かったところで、夫婦ともに働いている、いわゆる「共働き」の場合はどのような年金がもらえるのかを見ていきましょう。
共働きの場合、遺族年金はもらえるの?
共働きの場合、真っ先に心配になることは「働いていると遺族年金は何ももらえないのではないか?」ということではないでしょうか?
遺族基礎年金は残された子供に対して支給されるものであり、養育費の役割を担っていますので、収入に関する制限がありません。
つまり、専業主婦でも正社員でバリバリ働いていても、18歳に満たない子供がいれば遺族基礎年金は支給されるのです。
一方、遺族厚生年金は生活の再建ができるよう支給されるものです。したがって、亡くなった方と「生計維持関係」があるかどうかがポイントとなります。
「生計維持関係」とは、
- ・死亡した者によって生計を維持されていたこと
- ・年金を受給する遺族自身の収入が前年の収入が850万円未満であること、または所得が655万5千円未満であること
を言います。
生計維持といっても、お互いの収入で家計を支えあっているという相互扶助の考えから来ていますので、家計の一部を担っているだけで大丈夫です。
ですので、夫婦共働きであって、夫婦両方の収入で生活していたということであれば問題なく生計維持関係は認められます。
「働いているからもらえないのでは?」を心配されていた方も、これで安心ですね。
年齢別にみる遺族年金の種類(遺族が妻の場合)
一家の大黒柱がなくなった時、妻がどのような遺族年金をもらえるのか、年齢別で見ていきましょう。
※以下のケースでは保険料納付要件などすべて支給要件に満たしていることを前提としています。
自営業(国民年金加入)の夫が死亡時、妻の年齢が…
① 30歳未満(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【寡婦年金】(婚姻期間が10年以上の時、60歳から65歳までの間支給) |
② 30歳未満(子供なし) |
婚姻期間が10年以上の時【寡婦年金】(60歳から65歳までの間支給) |
婚姻期間が10年未満の時【死亡一時金】 |
③ 30歳以上39歳未満(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【寡婦年金】(婚姻期間が10年以上の時、60歳から65歳までの間支給) |
④ 30歳以上39歳未満(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
婚姻期間が10年以上の時【寡婦年金】(60歳から65歳までの間支給) |
婚姻期間が10年未満の時【死亡一時金】 |
⑤ 40歳以上65歳未満(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【寡婦年金】(婚姻期間が10年以上の時、60歳から65歳までの間支給) |
⑥ 40歳以上65歳未満(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
婚姻期間が10年以上の時【寡婦年金】(60歳から65歳までの間支給) |
婚姻期間が10年未満の時【死亡一時金】 |
⑦ 65歳以上(自分の年金を受給中) |
【老齢基礎年金】+【自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金で支給調整】 |
※支給調整については後ほど詳しく説明します。
夫が会社員(厚生年金加入)の時、妻の年齢が…
① 30歳未満(18歳未満の子供あり) |
子供が18歳になった時に妻が40歳以上であれば、 【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】+【中高齢寡婦加算】(遺族基礎年金支給終了後65歳まで) |
子供が18歳になった時に妻が40歳未満であれば、 【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】 |
② 30歳未満(子供なし) |
【遺族厚生年金】ただし5年間の有期年金 |
③ 30歳以上40歳未満(18歳までの子供あり) |
子供が18歳になった時に妻が40歳以上であれば、 【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】+【中高齢寡婦加算】(遺族基礎年金支給終了後65歳まで) |
子供が18歳になった時に妻が40歳未満であれば、 【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】 |
④ 30歳以上40歳未満(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
【遺族厚生年金】のみ ※40歳以上ではないので中高生寡婦加算はつきません |
⑤ 40歳以上65歳未満(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】+【中高齢寡婦加算】(遺族基礎年金支給終了後65歳まで) |
⑥ 40歳以上65歳未満(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
【遺族厚生年金】+【中高齢寡婦加算】(遺族基礎年金支給終了後65歳まで) |
⑦ 65歳以上(自分の年金を受給中)(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
【老齢基礎年金】+【自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金で支給調整】 |
※支給調整については後ほど詳しく説明します。
年齢別にみる遺族年金の種類(遺族が夫の場合)
妻に先立たれた場合、夫がもらえる遺族年金はどうなるでしょうか。
自営業(国民年金加入)の妻が死亡したとき、夫の年齢が・・・
① 全年齢(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】子供が18歳まで |
② 全年齢(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
【死亡一時金】のみ |
会社員(厚生年金加入)の妻が死亡したとき、夫の年齢が・・・
① 55歳未満(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】 |
※この場合の支給対象者は子供になりますので、子供が18歳の年度末で遺族基礎年金受給終了と同時に遺族厚生年金も終了します。
② 55歳未満(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
【支給なし】 |
③ 55歳以上(18歳までの子供あり) |
【遺族基礎年金】(子供が18歳まで)+【遺族厚生年金】(支給対象者は子供) |
※この場合の受給権者は子供になりますので、子供が18歳の年度末で遺族基礎年金受給終了と同時に遺族厚生年金も終了します。
④ 55歳以上(子供がいない、もしくは子供が18歳以上である) |
【遺族厚生年金】(ただし支給は60歳から) |
妻に先立たれた夫に対して支給される遺族年金は、
- ・18歳までの子供がいるとき
- ・妻の死亡当時55歳以上であること
が要件となります。これを見ただけでも夫に先立たれた妻の方が明らかに保障が厚くなっていることがわかりますね。
自分がどの遺族年金を受給することができるか、またその額はいくらになるか詳しく知りたい方は、年金事務所に問い合わせをしてみてください。
65歳以降の年金について
65歳になると自分自身が掛けた保険加入期間に対しての年金が支給開始となります。
基本的には、一人につきもらえる年金は、基礎年金(国民年金加入部分)と厚生年金(厚生年金加入部分)が同じ種類でなければならないということが決められています。
【老齢基礎年金】+【老齢厚生年金】が代表的な組み合わせですね。
ただし、例外としてこれら3つの組み合わせは、65歳以降であれば併給可能となっています。
- ・【老齢基礎年金】+【遺族厚生年金】
- ・【障害基礎年金】+【遺族厚生年金】
- ・【障害基礎年金】+【老齢厚生年金】
上記の例外があるからこそ、遺族厚生年金を受給している人が65歳になったときに、自分の年金である「老齢基礎年金」が支給開始になったときに受給できるようになるのです。
専業主婦・自営業であった妻など国民年金のみ加入してきた方であれば、65歳以降はご自身の「老齢基礎年金」が増えるだけですので「遺族厚生年金」を受給していたとしても何ら影響が出てきません。
ただ、ここで問題になるのは会社勤めをされている方がご自身の「老齢厚生年金」の支給が開始された時です。
老齢厚生年金と遺族厚生年金の支給調整とは?
上記でも記載した通り、基本的には同じ種類の年金しかもらえないことになっていますので、ご自身の「老齢厚生年金」と「遺族厚生年金」は同時に受給できず、支給調整が入ることになります。
支給調整の方法は、遺族厚生年金の受給権者が死亡した方の配偶者である場合、その遺族厚生年金は、
- 1.亡くなられた方の老齢厚生年金額の3/4
- 2.亡くなられた方の老齢厚生年金額の1/2 + ご自身の老齢厚生年金額の1/2
のいずれか多い額が支給されます。
つまり、遺族厚生年金も老齢厚生年金も両方ともに満額もらうことはできないのです。しかも、夫と妻の年金額の違いでもらえる金額にも差が出てきてしまいます。
夫が先に死亡した場合、金額の例を挙げて見ていきましょう。
CASE① 夫の老齢厚生年金<妻の老齢厚生年金
- 夫:老齢厚生年金 15万円
- 妻:老齢厚生年金 20万円
上記の場合では…
1.夫の老齢厚生年金額の3/4(15万円×3/4=11.25万円) → 11.25万円 |
2.夫の老齢厚生年金額の1/2(15万円×1/2=7.5万円)+妻の老齢厚生年金額の1/2(20万円×1/2=10万円)→ 17.5万円 |
【支給額】
妻の老齢厚生年金:20万円
※妻自身の老齢厚生年金20万円よりも遺族厚生年金の金額が下回りますので、この場合は遺族厚生年金は支給されず、妻の老齢厚生年金のみの支給となり、遺族厚生年金は受給することはできません。
CASE② 夫の老齢厚生年金>妻の老齢厚生年金(夫の年金の1/2超)
- 夫:老齢厚生年金 20万円
- 妻:老齢厚生年金 15万円
上記の場合では…
1.夫の老齢厚生年金額の3/4(20万円×3/4=15万円) → 15万円 |
2.夫の老齢厚生年金額の1/2(20万円×1/2=10万円)+妻の老齢厚生年金額の1/2(15万円×1/2=7.5万円)→ 17.5万円 |
【支給額】
夫の老齢厚生年金額の1/2+妻の老齢厚生年金額の1/2 : 17.5万円
※妻の年金の金額が夫の金額の1/2超である場合は、夫の老齢厚生年金と妻の老齢厚生年金の金額の1/2ずつ受給することになります。
CASE③ 夫の老齢厚生年金>妻の老齢厚生年金(夫の年金の1/2以下)
- 夫:老齢厚生年金 20万円
- 妻:老齢厚生年金 8万円
上記の場合では…
1.夫の老齢厚生年金額の3/4 → 20万円×3/4=15万円 |
2.夫の老齢厚生年金額の1/2(20万円×1/2=10万円)+妻の老齢厚生年金額の1/2(8万円×1/2=4万円)→ 14万円 |
【支給額】
夫の老齢厚生年金額の3/4 : 15万円
※妻の年金額が夫の金額の1/2以下であるとき、夫の遺族厚生年金(老齢厚生年金3/4)を受給することになり、妻自身の老齢厚生年金は受給することができません。専業主婦である場合もこのケースに該当します。
ここで気を付けたいのが、遺族厚生年金は非課税に対し、老齢厚生年金は課税対象であることです。
上記のケースから見ると、CASE①は20万分全部、CASE②は7.5万円分が課税対象となります。
一方、CASE③は自分で今までかけてきた老齢厚生年金は一銭ももらえませんが、15万円は全額非課税扱いになります。
つまり、自分の老齢厚生年金を多く受給することになると、その分、課税対象金額が大きくなりますので、実際に受け取れる金額は少なくなる可能性が出てきます。
また、所得税や住民税の金額にも影響が出てくることがあります。
後でびっくりしないためにも、今のうちから覚えておきたい事柄です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、共働き夫婦の場合、遺族年金はどうなるのかを見てきました。
公的年金から支給される遺族年金も、その時の年齢や子供の状況によっていろいろ変わってきます。
ましてや一家の大黒柱を失うことで、精神的のみならず家計的にも大ダメージを受けることは必至です。
いつ起こるかわからない大切な人との別れ。今の生活を十分に楽しむためにも、今一度、夫婦で将来のライフプランを見直す機会を作ってみてはいかがでしょうか?
ファイナンシャルプランナー とりごえあつこ