厚生労働省は、高額な費用がかかる不妊治療に対し、2022年に不妊治療の保険適用を拡大する方針を打ち出しました。

今や、5.5組に1組のカップルが行っている不妊治療は、保険適用されずに高額な治療費がネックとなる事が多く、治療費のねん出に苦労している方も多いのが現状です。不妊治療の保険適用は不妊治療を行うカップルにとってありがたい政策となるのではないでしょうか。

そこで今回は、不妊治療の費用の目安や保険適用によって自己負担がどのくらい軽減できるのかについてご紹介したいと思います。

<不妊治療とは?>

■不妊の定義は?

日本産科婦人科学会によりますと、子供を授かりたいカップルが1年間妊娠しなかった場合は「不妊」と定義されています。
通常の夫婦生活を行っていると、1年で80%、2年で90%の夫婦が赤ちゃんを自然に授かると言われており、残りの10%が不妊症と考えられ、自然妊娠は難しいとされています。

■不妊治療の方法は?

一般的な不妊治療は、段階的に3つの方法があります。

①タイミング法

一般的に不妊治療の初期の段階で用いられる治療方法が「タイミング法」になります。
検査結果をもとに医師が排卵日を推測し、その前後に性行為をして、自然妊娠をめざす方法です。
保険が適用でき、費用は1回数千円程度です。

②人工授精

タイミング法からステップアップした方向けの治療法として、「人工授精」があります。
人工授精は、子宮に精子を人工的に注入する方法になります。

人工授精で妊娠される方の90%が人工授精6回目位までに妊娠する場合が多いので4~6回目以降に体外受精や顕微授精といった次のステップに進む方が多いようです。

保険適用外で、費用は1回1~2万円です。

③体外受精、顕微授精

人工授精からステップアップした方向けの治療法には、「体外受精」「顕微授精」があります。

体外受精は、卵子を体外に取り出し、取り出した卵子と精子を自然に受精させ、受精卵を子宮に戻す治療法です。

一方、顕微鏡と細いガラス管を用いて人工的に受精させる方法を顕微授精といいます。

体外受精や顕微授精は保険適用外で、費用は1回20~60万円程度と高額のため、助成金が支給される自治体もあります。

たとえば、東京都の場合、体外受精や顕微授精の治療費に対して助成金が支給されます。
1回の治療につき、治療ステージごとに上限7.5万円~20万円(初回のみ30万円)の助成金が最大6回まで(妻の年齢により異なる)支給されます。

また、令和3年1月1日以降に終了した治療については、以下の要件が緩和されています。
・夫婦合算の合計所得額:905万円未満⇒所得制限の撤廃
・助成額:1回20万円⇒30万円(ステージC、F:7.5万円⇒10万円)
・助成回数:生涯通算6回まで⇒1子ごと6回まで

上記は、東京都の不妊治療助成制度になり、国の助成制度とは多少異なります。お住まいの自治体によっては国が行う助成制度よりも手厚い場合もありますので、お住まいの自治体と国が行う不妊治療費助成の詳細をよくご確認ください。

東京都福祉保健局
東京都特定不妊治療費の概要https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/josei/funin/top.html

厚生労働省
不妊に悩む方への特定治療支援事業https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047270.html


ご紹介した通り、治療費が高額になりがちな不妊治療。
費用総額はいくら位かかるのでしょうか?

■不妊治療の費用は総額いくらかかる?

2017年10月に「妊活ボイス」が妊活中の300名を対象に行った「妊活・不妊治療」に関する調査によりますと、「妊活全般にかかった費用」は平均で約35万円という結果になりました。

一方で、人工授精・体外受精・顕微授精のいずれかを経験した人に限ると、費用の平均額は約134万円まで上昇します。

さらに、不妊治療の中でも保険適用外の体外受精・顕微授精となると、その治療費総額の平均額は193万円まで上昇し、300万円以上かかった方も約6人に1人(16.1%)という結果になりました。

■不妊治療の保険適用で自己負担はどのくらい減るの?

体外受精や顕微授精の治療費は令和2年12月現在、公的保険が適用されずに自己負担となっています。今後、不妊治療の治療費に保険が適用された場合、どのくらいの自己負担額が軽減できるのでしょうか?

先ほどご紹介した「妊活全般にかかった費用」の中で、体外受精・顕微授精の治療費総額の平均額193万円を例にとると、仮に193万円の治療費すべてが保険適用になった場合、3割負担の単純計算で約58万円の支払いで済むことになります。

不妊治療費が保険適用になれば、193万円かかるはずの治療費総額を135万円も軽減でき、その分を出産費用や子供の養育費用に充てることができますので、ライフプラン的にも助かりますね。


今回は、不妊治療費の目安や保険適用時の自己負担額についてご紹介しました。

不妊治療費の助成については、埼玉県が不妊検査や35歳未満の早期不妊治療に最大10万円、流産等を繰り返す不育症に2万円の助成金を支給しています。一部の企業でも社員の不妊治療を補助する制度を創設。たとえば、家電量販大手のノジマが不妊治療実費にかかる費用を最大60万円まで会社が負担したり、花王も一回の治療につき自己負担額の6割を補助といった事を行っています。

また、働きながら不妊治療を行う人を支援するため、2021年度より不妊治療しやすい職場環境を整える中小企業にたいしての助成金新設も検討段階に入っており、今後環境的にも経済的にも不妊治療を受けやすい環境がさらに整っていくと期待されています。

文:山崎美紗 
ファイナンシャルプランナーCFP®
FP1級技能士、チャイルドカウンセラー